実験小説

創作・文化 小説

157 Res. 49.54954563 MONA 3 Fav.

1 :ハットリ六段:2014/05/20 00:31:07 (10年前)  4.14114114MONA/4人

トピックを建てた本人がモナコインを貰えるかの実験として、ちょっと短編を書いてみようかと。

・内容は秘密、ただし誰でも読めるような物です。
・稀に選択肢を出しますので、選択肢に投げたモナコインの「末尾の数字」で次の内容が決まります。
 ※あくまで実験なのでそれぐらいがちょうどいいんじゃないかと
・寄付もレスも随時、賑わったらいいなぁ。
・10~20行ぐらいで1投稿とします、完結目指しますが途中で失踪したらスレは沈めて下さい。

なんぞこれ?と思った方はとりあえずのんびり読んでみてくださいな。

2 :ハットリ六段:2014/05/20 00:36:14 (10年前)  0.1MONA/1人

暗い部屋の中に、自分は一人で立っていた。
なぜそこにいるかも分かっていたし、その後どうなるかも分かっていた。

「あなたは、何をしましたか?」

天井にあるスピーカーから、機械的な声が響く。
何度聞かれたかも分からない答えを、冷静に、口から吐き出す。

「妻を殺しました」

言葉と一緒に流れこむフラッシュバックは、まるで何十年も前のように思える。
しかしそれは本の数カ月前の出来事だった。

「……わかりました、それでは判決を下します」

3 :ハットリ六段:2014/05/20 00:43:32 (10年前)  0MONA/0人

そこで、自分の記憶は一度途切れた。

─…。

朝、小さい部屋で自分は目を覚ました。
何か夢を見ていたような気がするが、どんな夢だったか思い出せない。

「ここは……」

起き上がり辺りを見回す。
壁に掛けられたスーツ、小さいテレビ、自分が横になっていたのは安物の布団。
隣に見える居間と思われる部屋には、簡単な朝食が用意されていた。
どうにも、記憶がはっきりしない。

4 :ハットリ六段:2014/05/20 00:50:49 (10年前)  0MONA/0人

「あ、起きました?」

居間からひょっこりと顔を出したのは、まだ若い女の子だった。
寝起きの直後、しかもあまりに唐突に現れたものだから思わず体が揺れる。
おそらくそんな自分の感情が表に出ていたのだろう、彼女はちょっとだけ怪訝な顔をした。

「そろそろ慣れてくれないと、こっちも困るんですけど」

そう言って彼女は自分の左手首を右手で指さす。
そこには小さい金属製の腕輪のような物が光っていた。

そんな彼女の右手を見ながら無意識に自分の腕に触れる。
どこかで予想していた通り、自分の腕にも同様のものが巻かれていた。

5 :ハットリ六段:2014/05/20 00:56:31 (10年前)  0MONA/0人

夢、少女、腕輪、それらが自分の記憶を徐々に呼び戻す。

「そうだ、忘れてた」
「思い出してくれたなら良いんですけど、朝ごはんとりあえず作ってみました」

「君が作ったの?」
「その質問の前に……」

彼女は自分のいる部屋まで来ると、居住まいを正して座る。

「おはようございます、今日も頑張りましょう」
「おはよう」

思い出した。 僕達は、囚人だった。

6 :ハットリ六段:2014/05/20 01:02:42 (10年前)  0.47000001MONA/3人

「それじゃ、ご飯食べましょう。 その子も起こして下さい」

彼女が指をさしたのは、自分のさらにうしろ。
振り返るとそこには……

■モナコイン末尾 1~4
 布団が小さく山のようになっている。
 めくり上げると、そこには綺麗に丸くなった女の子が眠っていた。

■モナコイン末尾 8~9
 手を万歳のように上に投げ出し、規則正しい寝息をたてている
 あどけない少年が眠っていた。

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

7 :ハットリ六段:2014/05/20 01:22:11 (10年前)  0MONA/0人

訂正:8~9 → 5~9

8 :ハットリ六段:2014/05/20 22:11:52 (10年前)  0MONA/0人

末尾1からずっと変化無しなので1~4ルートに進みます、少々お待ちを。

9 :ハットリ六段:2014/05/20 22:56:05 (10年前)  0MONA/0人

布団が小さく山のようになっている。
めくり上げると、そこには綺麗に丸くなった女の子が眠っていた。

今まで隣で寝ていたのに気づかなかった。
軽く肩を揺すると、聞き取れない様な寝言を呟いて少女は目を開ける

「……」
「おはよう、朝だぞ」

少女の目はまだ寝ぼけているが、その瞳には年齢には似つかわしくない
意思が宿っている様に思えた。

「ダメだよ、ちゃんと挨拶しないと」
「……おはよう」
彼女の言葉には逆らえないのか、少女は渋々と朝の挨拶を交わした。

10 :ハットリ六段:2014/05/20 22:57:15 (10年前)  0MONA/0人

「いただきます」

程なく、三人の朝食が始まった。
ご飯と味噌汁と、卵焼き……を苦心して作った様な形跡。

「あ、味見はちゃんとしましたからっ」
じっと卵焼きを見ていたのが気になったのか、彼女は少し顔を赤くして弁解した

「料理の本は読んだんですけど、やっぱり難しいですね」
「料理は作った事なかったの?」
「はい、恥ずかしながら」
元気にご飯を口に運ぶ少女の口を拭きながら、彼女は困った様に笑う。

「ご飯て、何もしなくても出てくると思ってました」
その言葉は、何かを噛みしめる様な強い言葉だった。

11 :ハットリ六段:2014/05/20 22:58:19 (10年前)  0MONA/0人

「確かに……それは同感だ、良ければ明日から手伝うよ」
「あ、いいんです。 作るの、楽しいですから」

─…。

「準備できました?」
「うん、とりあえずスーツを着てみたんだけど」
朝食が済むと、言われるがままに外出するための服に着替えた。
服装は何でもいいと言われたが、どうやら自分はスーツしか持っていないようだった。

「私も! 準備出来た!」
「おお、完璧な小学生だな。 どこからどう見ても小学生だ」
「だって小学生だもん!」
そう言って、背中のランドセルを叩く少女の手首にも鈍く光る腕輪があった。

12 :ハットリ六段:2014/05/20 23:13:46 (10年前)  0MONA/0人

「一人で行けそうですか?」
心配そうに自分を見る彼女は、見た事の無い制服を着ていた。
おそらくここに来る前に通っていた学校のものだろう。

「大丈夫、本音を言うとまだ頭がまだはっきりしないけど
 ここで働かないといけないのはわかるから」
「働く……と言うのは少し違うと思いますけど」
彼女はそう言って手を振った。

「それじゃ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃーーい!!」
「うん、いってきます」
出会って数日の二人に手を振って自分は家を出た。

13 :ハットリ六段:2014/05/20 23:29:56 (10年前)  0MONA/0人

外に出て初めて、自分のいた場所は小さいアパートの一室だったと気づいた。
都会でもなければ無人島でもない、中途半端にのどかな町並みが広がっていた。
一歩踏み出すと、自然と足はどこかへ向かっていく。

(記憶がまとまらない)
手首についた小さい腕輪に目をやると、小さいディスプレイがある事に気づいた。
それはまるで電卓のように、デジタルの「8」を端から端までうっすらと映している。
そして数字は「3.5」と濃く表示されていた。

(彼女達とは確か、数日前に出会って……)
誰かに引き合わせられた気がする、その時の記憶も曖昧だ。

(何かを言われた後、一緒に暮らすことになって……)
その時、腕輪が軽く震えた気がしてディスプレイを覗きこむ。

14 :ハットリ六段:2014/05/20 23:41:19 (10年前)  0MONA/0人

「3.51…」
僅かながら、数字が増えていた。

“これは大事な数字です、大事にしてください”
自分を個々に連れてきた人間がそう言っていた気がする。
この数字が何を意味するのかわからず、腕輪を指でコツコツと叩いたり
スイッチを探してみたりしている内に足は一つの建物の前で止まった。

そこは、この田舎には似つかわしくない程大きなビルが建っていた。
民家、民家、ビル、民家。 どう考えても普通じゃない。

「そうだ、ここで働くんだ」
自分は夢遊病者のように、ビルの中に足を踏み入れる。

15 :ハットリ六段:2014/05/20 23:43:44 (10年前)  0.114114MONA/1人

モナコイン末尾1~4
 やる事は分かっている、自分は記憶を頼りに執務室へ進んだ。

モナコイン末尾5~9
 自分はここで何をするのか、もう一度確認するため受付へ進んだ。

モナコイン末尾0
 上記からランダム

16 :ハットリ六段:2014/05/21 22:17:16 (10年前)  0MONA/0人

モナコイン末尾1~4なので
「やる事は分かっている、自分は記憶を頼りに執務室へ進んだ。」

17 :ハットリ六段:2014/05/22 00:03:37 (10年前)  0MONA/0人

やる事は分かっている、自分は記憶を頼りに執務室へ進んだ。

─…。

「おはようございます」
執務室に入り挨拶をすると、責任者と思わしき男が顔を上げた。

「おはよう、名前を」
無機質な挨拶とシンプルな要件に、少し面食らいながら自分の名前を告げる。

「今日は1008号室の16番目に座るように」
何かを手元の端末に打ち込みながら、それ以上こちらに顔を向ける事は無かった。

「失礼します」
責任者の脇をすり抜け、奥の部屋に向かう。

18 :ハットリ六段:2014/05/22 00:19:52 (10年前)  0MONA/0人

何もない通路を進むと、たくさんのエレベーターがあるフロアに出る。
”1000~1100”と書かれたプレートの下のボタンを押すと、程なくドアが開いた。

(これが、仕事か)
ここに何度来たかは覚えてない、しかし来るたびにフロアも番号も違った。
それでもこれが仕事だと、初めてここに来た時に教えてもらった。

ドアが開き、今度はたくさんのドアが一列に出迎える。
無人の廊下を歩き、指定された部屋を開ける。
そこには、たくさんの人が机に向かっていた。

例えるなら、まるで受験勉強中の学生のように、誰も喋ること無く黙々と作業をしている。
見回すと一つだけ空いている席があった。 考えなくてもそこが自分の席だとわかる。

自分は席につくと、備え付けのモニターが自動的に起動した。

19 :ハットリ六段:2014/05/22 00:25:55 (10年前)  0MONA/0人

しばらく待つと、画面には自分の名前が表示されゆっくりと消えていった。
その後、画面に現れたのは数学の公式。

8 + 5 = ?

(数学じゃなくて、算数だな)
右にあるパネルに答えを打ち込む、すると軽い電子音が響き公式は消えていく。
すると、また新しい公式が浮き出てきた。

耳を澄ますと、正解したと思わしき電子音があちこちで聞こえる。
まるで機械のように解いていく人もいれば、やる気もなさそうに解く人もいる。

(これが、仕事なのだろうか?)
ここに連れてきた人間は、これをこなせば最低限の保証をすると言っていた。

20 :ハットリ六段:2014/05/22 00:32:19 (10年前)  0MONA/0人

この作業に何の意味があるのだろう。
そして、自分はなぜここにいるのだろう。

“意識の混濁が見られますね”

あの時の記憶が蘇る、でも、そんな事はない。
ここは刑務所で、自分は囚人だ。

(でも、彼女達もそうなのだろうか?)
右手の腕輪を見る、彼女達もこれをつけていた。
彼女はともかく、あの小さい少女も罪を犯したのだろうか。

単調な作業は思考をするのに丁度いい。
チャイムの様な音に気づき顔を上げると、すでに数時間が経っていた。

21 :ハットリ六段:2014/05/22 00:36:59 (10年前)  1.14114005MONA/1人

軽く伸びをして立ち上がる。
作業をするのも自由、退室も自由。
つくづく変わった作業だと思いながら部屋を出る。

モナコイン末尾1~4
 昼食でも取りに行こう、この時間ならあの男がいるはずだ。
 自分は食堂へ向かった。
 

モナコイン末尾5~9
 外の空気が吸いたいな、きっとこの時間ならあの女性もいるだろう。
 屋上へ行こう。

モナコイン末尾0
 上記からランダム

22 :htp32六段:2014/05/22 01:00:04 (10年前)  0MONA/0人

こういうの好きですwww
diff上がってくの?

23 :ハットリ六段:2014/05/22 12:09:46 (10年前)  0MONA/0人

>>22
内容がもうばれてそうだ。
上がって行くでしょうが、主題はちょっと違います。

24 :ハットリ六段:2014/05/22 23:27:57 (10年前)  0MONA/0人

モナコイン末尾5~9
 外の空気が吸いたいな、きっとこの時間ならあの女性もいるだろう。
 屋上へ行こう。

このルートへ進みます。

25 :ハットリ六段:2014/05/22 23:41:01 (10年前)  0MONA/0人

外の空気が吸いたいな、きっとこの時間ならあの女性もいるだろう。
屋上へ行こう。

さっきとは違うエレベーターに乗り、屋上へ向かう。

─…。

静かな振動の後にエレベーターは開き、目の前に古ぼけたドアが見えた。
外観からは想像も出来ない古びたドアを開けると、周りが一気に白く包まれる。

目を細めて屋上へ踏み出す。 足には病院の床のようなリノリウムの感触が伝わってくる。
意外なことに人は少なからずおり、皆が思い思いに過ごしていた。
何かを食べたり、絵を描いたり、遊んだりしている。

その中で一人、ただ景色を眺めてる人がいた。

26 :ハットリ六段:2014/05/22 23:47:34 (10年前)  0MONA/0人

「こんにちわ」

声をかけると、景色を見ていた女性はゆっくりをこちらを振り向く。

「あぁ、君か。 こんにちわ」
「景色、見てたんですか?」
「うん」

屋上からの景色はとても絶景だった。
このビルほど大きい建物はどこにもない、ここを中心に小さい建物が
放射状に広がっている。 目を凝らせば自分が目を覚ました、
あのアパートも見えそうだった。

しかし、このビルを除いてただ一つおかしいところがあるとすれば
ここは360度、完全に山に囲まれている点だろう。

27 :ハットリ六段:2014/05/22 23:56:34 (10年前)  0MONA/0人

「ここの暮らしは順調かい?」
「えぇ、まぁ」
「この前あった時はひどい顔だったからね、落ち着いたようで何よりだ」
そう言って、彼女は腕を大きく広げて息を大きく吸い込む。

「そんなに酷かったですか?」
「うん、自分の妻を殺したって。 ずっと言ってた」
その言葉に、心臓が跳ねる。

「本当の事です、自分が殺したんです」
「じゃあ、どうやって殺したんだい?」
「それは……」
思い出そうとした、自分がどうやって妻を殺したか? それなのに……。

「なんで……思い出せないんだ……」

28 :ハットリ六段:2014/05/23 00:05:15 (10年前)  0MONA/0人

自分の混乱を他所に、彼女はこちらに微笑みかける。

「君がどうしても、そう思いたいと思うならそれでいい。
 それなら私は誘拐犯という事になるけどね」
「それは、どういう事ですか?」
僕の質問には答えず、屋上にいる人間を小さく指差す。

「あっちはさしずめ強盗犯、向こうにいるのは詐欺師だ。 そして君は、殺人犯」
そのまま踵を返し、眼下に広がる景色に目を向ける。
「ここは刑務所で、この仕事は囚人の義務。 そう思ってるんだろう」
「違うんですか?」

「逆だよ。 ここを出たらたぶん、皆死んでしまう」
彼女の言葉は、この世界と同じぐらい現実味がなかった。

29 :ハットリ六段:2014/05/23 00:13:29 (10年前)  0MONA/0人

「全員、死んでしまうんですか」
「少なくとも、君は生きていけないだろうね」
その言葉が、まるで別の言語のように理解できない。

「……ん、なにか不安にさせてしまったようだな。
 別にそんな気はなかったんだが」
自分が喋らなかったからだろう、彼女はすまなそうに謝った。

「まずはここの生活にもっと慣れて、何をするかを探したらいい。
 これはその餞別だ」
彼女はそう言うと、自分の腕輪に触れる。
すると腕輪は一瞬明滅して、すぐにそれは収まった。

「それじゃ、また今度」
自分の返事を待たずに古びたドアから彼女は消えていった。

30 :ハットリ六段:2014/05/23 00:17:11 (10年前)  1.14114005MONA/2人

(どういう意味なんだろう?)
考えがまとまらないまま、時間は流れていく。
こうしていても始まらないと思い、自分は……

■モナコイン末尾 1~4
 再び作業に戻った、今はそれが一番良いような気がした。

■モナコイン末尾 8~9
 なんとなく作業に戻るのが躊躇われ、ビルを後にした。

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

31 :htp32六段:2014/05/23 04:50:30 (10年前)  0MONA/0人

今日は早起き。リノリウムという言葉を覚えた。
頭の中で適当に想像した続きとは違うなぁ…

32 :ハットリ六段:2014/05/23 12:06:25 (10年前)  0MONA/0人

あ、また指定間違えてますね。
8〜9は5〜9です。

33 :ハットリ六段:2014/05/23 23:40:00 (10年前)  0MONA/0人

■モナコイン末尾 8~9
 なんとなく作業に戻るのが躊躇われ、ビルを後にした。

このルートへ進みます。

34 :ハットリ六段:2014/05/24 01:24:26 (10年前)  0MONA/0人

なんとなく作業に戻るのが躊躇われ、ビルを後にした。

1階の受付を通り抜ける時、最初に出会った男が自分を一瞥する。
しかし特に何も言わないまま、彼はモニターに向き直った。

─…

「さて、どこに行こう」
もう少し考えて行動するべきだったと後悔するが、それは後の祭り。
途方にくれていると、腹の虫が鳴った。
よく考えたら、あの子に作ってもらった朝食以外何も口にしていない。

「どこかで、飯を食わないとな」
お腹が空いてご飯を食べたくなる、そんな当たり前の事が
自分に現実感を与えてくれた気がした。

35 :ハットリ六段:2014/05/24 01:33:20 (10年前)  0MONA/0人

辺りを見回すと、建物が密集した所が見える。
少し大きな建物が見えるし、どうやら商店街のようだ。

「あそこに行ってみるか」
昼下がりの寂れた街を、スーツの男が歩く。
それは周りからどう映るのだろうか?

─…。

「なんだ……ここ」
建物が密集する地域に足を踏み入れた時、思わず足が止まった。
来るまではただの商店街だと思っていたし、実際見た目もそうだ。
しかし、そのまばらなお店は大小様々で途切れる事無く続き、
入り口からは端が見えないほどの長さになっていた。

36 :ハットリ六段:2014/05/24 01:38:27 (10年前)  0MONA/0人

何より奇妙なのは、そのお店の多さに反比例するように、
人はまばらにしかいない事だった。

「なんて、アンバランスな」
素直に口から漏れた。 その言葉でしか表現できないほど
その空間はちぐはぐに構成されていた。

「……驚いていても仕方ない、ご飯が食べれる所を探そう」
空腹を意識すると、空腹は加速する。 今は当面の課題を解決するために
商店街に足を踏み入れた。

横目で店を確かめながらゆっくりと歩く。
商店街に入って一つ目の店は、なんと画材屋だった。

(なんで、画材屋が一番目立つ位置にあるんだ?)

37 :ハットリ六段:2014/05/24 01:48:10 (10年前)  0MONA/0人

訝しみながらも画材屋の前を通り過ぎる。
そして、次の店は楽器屋だった。
店頭には一般的なギターから、どこの国で使っているのかわからない物まで
網羅されている。

(一体誰がコレを買うんだろうか)
とりあえずひと通り揃えました、という雰囲気が漂う楽器屋を通り過ぎると、
今度はスポーツ用品店が現れた。

今度のお店は小さいながら、野球道具を専門に扱っているようだった。
なんとなく日常的な空気を感じて、ホッとしながら目を横にズラした瞬間飛び込んできた光景に目を疑う。

「サッカー…………用品店」
いまさらながら、ここが普通の世界でない事を思い知った瞬間だった。

38 :ハットリ六段:2014/05/24 01:57:58 (10年前)  0MONA/0人

半ば呆然としながら商店街を進んでいく。

サッカー用品店の次はバスケットボール・バレーボール・ソフトボールにハンドボール。
およそ全ての球技が終わったと思ったら今度は釣り道具やバイクなどのアウトドア用品。
細かい物に至っては、習字専門店などまで存在していた。

「ということは……」
嫌な予感がして後ろを振り向くと、そこには本屋が“各ジャンルごとに”延々と
連なっていた。

「ここは一体、なんなんだ」
今朝までの憂鬱も、空腹すらも駆逐して、疑問符が頭の中を駆け巡る。

39 :ハットリ六段:2014/05/24 02:01:23 (10年前)  1.14114005MONA/1人

頭が現実に追いつかず、軽いめまいを覚えた自分はその場にしゃがみ込んだ。

(なんだか、悪い夢みたいだ)
その時、声をかけられた気がして後ろを振り向くと…

■モナコイン末尾 1~4
 そこには、今朝一緒に朝ごはんを食べたランドセルを背負った少女がいた。
 
■モナコイン末尾 5~9
 そこには、今朝一緒に朝ごはんを食べた制服の少女がいた。、

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

40 :htp32六段:2014/05/24 07:28:26 (10年前)  0MONA/0人

展開が読めないwww

41 :ハットリ六段:2014/05/25 01:57:40 (10年前)  0MONA/0人

■モナコイン末尾 5~9
 そこには、今朝一緒に朝ごはんを食べた制服の少女がいた。

に進みますが、今日はちょっと時間が無いのでお休み

42 :ハットリ六段:2014/05/25 20:23:46 (10年前)  0MONA/0人

頭が現実に追いつかず、軽いめまいを覚えた自分はその場にしゃがみ込んだ。

(なんだか、悪い夢みたいだ)
その時、声をかけられた気がして後ろを振り向くと…
今朝一緒に朝ごはんを食べた制服の少女がいた。

「どうしたんですか、こんな所で?」
彼女は朝出会った格好のままで、不思議そうにコチラを見ている。

「えーっと、昼ごはんを……だね」
「お仕事はどうしたんですか?」

今朝目覚めた時とは違う、辛さがあった。

43 :ハットリ六段:2014/05/25 20:29:21 (10年前)  0MONA/0人

「……」
「やっぱり、まだ……慣れませんよね」
なんとなく事情を察したのだろう、彼女は自分からそう言って
話を切り上げてくれた。

「えっと……そうだ、お昼ですよね? 一緒に食べましょうか」
「あ、ああ」
全面的にコチラが悪い、どこかぎこちない会話の後で自分達は
歩き出した。

「学校はいいの?」
「大丈夫ですよ、学校だってここだって何かをする場所ですから」
彼女は周りを見回しながら、そう言って踵を返す。

「ここにお食事出来る所はありませんよ、隣へ行きましょう」

44 :ハットリ六段:2014/05/25 20:38:23 (10年前)  0MONA/0人

二人は連れ立って小さい路地を抜け、隣の商店街へ移る。
今度はうってかわって、たくさんの食べ物屋が並んでいた。
まさに古今東西の料理屋という様相だったが、一つだけ共通点があった。

「アルバイト募集……」
この張り紙が全てのお店に貼ってあった。

「あ、気になりますか?」
立ち止まった自分に気づき彼女は声をかける。

「気になったのなら、働いてみますか」
「え、こんなに店があって、どこも人が足りてないの?」
「いいえ? そんな事は無いと思いますよ」

どういうことだろう。

45 :ハットリ六段:2014/05/25 20:45:16 (10年前)  0MONA/0人

「本当に何も聞いてないんですね」
「えっと、何を?」
「……教えてあげません。 ほら、行きますよ?」

自分の言葉が彼女を少しだけ怒らせたようで、慌てて後を追いかけた。

─…

「そう言えば、コインは溜まりました?」
「ごめん、それがわからない」
「んぐっ!?」
行儀よくお蕎麦をすすっていた彼女は、自分の言葉を受けて止まる。

「……だって午前中は仕事に行ったんじゃ」
「行ったけど……え?」

46 :お腹すいた名無し六段教士:2014/05/26 00:31:11 (10年前)  0MONA/0人

すごく気になる

47 :ハットリ六段:2014/05/26 01:03:29 (10年前)  0MONA/0人

「ちょ、ちょっと待って下さいっ」
そう言うやいなや、慌てて彼女は自分の手首にある腕輪を見る。

「……なんだ、ちゃんと入ってるじゃないですか」
「ホッとしてる所わるいんだけど、出来れば何がどうなってるのか
 説明して欲しいんだけど」
そう言いながらも、自分は蕎麦を食べる手を休めない。

「ここにある数字、気づきました?」
「それは……あれ、増えてる?」
よく見ると数字は朝よりもまた増えていた。

「これがコインの数、要するにお金なんです。
 ここではコレがないと何も出来ないし、何も買えません」

48 :ハットリ六段:2014/05/26 01:09:50 (10年前)  0MONA/0人

「お金、それじゃこのお店も?」
よく見回すと、壁にかかっているメニューの下には
小数点以下の数字が羅列されている。

「はぁ……良かった。 私達三人は共通のお財布なんです」
彼女は胸を撫で下ろすような仕草をして、食事を再開する。

「いつの間にか増えてたのは、そういうワケだったのか」
「はい、私達は学校に行けばもらえます」
「……なんで?」
「……学生だからですよ?」
「そうか、なるほど」

……そうだろうか。

49 :ハットリ六段:2014/05/26 01:16:44 (10年前)  0MONA/0人

「それにしても、よくこんなに貰えましたね。
 計算解くの得意なんですか?」
「どうだろう?」

まとめると、この数字は俗にいうお金で。
僕が自然とやっていた作業は仕事で。
作業の報酬はお金という事になる。

「一つ聞きたいんだけど」
「はい、なんでしょうか?」

「今日、君の言うコインを貰った覚えが、僕に無い」
「んぐっ!?」
本日二度目の、蕎麦が噴き出しそうな音だった。

50 :ハットリ六段:2014/05/26 01:24:19 (10年前)  0MONA/0人

「や、やっぱりもらってないんですか!?」
口元を手で覆いながら、彼女はこちらを見開いた目で睨む。

「いや、途中で勝手に出てきちゃったし」
まさか給料出るような作業だとは思っていなかった。

「それなら、誰かが腕輪に向けて何かをしませんでしたか?」
「ん、それなら覚えがある」
自分は屋上でのやりとりを思い出した。

「なるほど、それで納得しました」
「でも、それって要は自分にお金をくれたって事だろう?
 なぜそんな事をするんだ?」
 
思った事を正直に口に出す。

51 :ハットリ六段:2014/05/26 01:27:50 (10年前)  1.14228119MONA/2人

「それはですね……」

■モナコイン末尾 1~4
 彼女は「コイン」について話し始めた。
 
■モナコイン末尾 5~9
 彼女は「信頼と期待」について話し始めた。

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

※雑記:ちなみに屋上に行かずここに来た場合は、コインがギリギリとなり晩御飯が無くなるルートでした。

52 :htp32六段:2014/05/26 06:16:07 (10年前)  0MONA/0人

流れの理解が多少進んだ気がする。さらに期待。

53 :ハットリ六段:2014/05/27 10:38:55 (10年前)  0.00114114MONA/1人

すいません風邪っ引きになってしまい遅れています。
ちゃんと終わらせるつもりなので気長にお待ちください

54 :ハットリ六段:2014/05/29 00:04:36 (10年前)  0MONA/0人

■モナコイン末尾 5~9
 彼女は「信頼と期待」について話し始めた。

こちらに進みます。

55 :ハットリ六段:2014/05/29 00:22:03 (10年前)  0MONA/0人

彼女は「信頼と期待」について話し始めた。

「さっき、この数字がお金と同じだって言いましたよね」
「うん」
「では、そもそもお金ってなんだと思います?」
「……お金は、お金じゃないのかな」

彼女は自分の答えに納得がいったように……というか
その答えを予想していたように微笑む。

「違います、正解は信頼です」
「信頼……お金が?」
「はい、そうですね。 ……例えば」

彼女はポケットの財布から10円玉を取り出すと、机に置いた。

56 :ハットリ六段:2014/05/29 00:27:07 (10年前)  0MONA/0人

「さて、この10円玉は何円でしょう?」
「10円……じゃないんだろうなぁ」
答えはわからないけど。

「そうですね、正解は0円です」
「なんで10円じゃないの?」
「これを10円の価値があると、みんなが信頼していないからです」
「……?」

「むぅ……ちょっとわかりにくいですよね……」
彼女はそう言うと考えこんでしまった。
1回りはゆうに違いそうな少女に講師をしてもらいながら、
それでも理解できない自分が少し恥ずかしい。

「とりあえず、外でようか?」

57 :ハットリ六段:2014/05/29 00:32:49 (10年前)  0MONA/0人

使い方が分からない自分を横目に、彼女はさっと二人分の
支払いをしてくれた。

「さっきの話の続き、いいですか?」
「お願いします」
「はい、まかせてください」
少しだけ長い髪を揺らしながら、彼女は自分の隣を歩く。

「さっきの10円玉ですが、作るとしたら10円の予算で作れますか?」
「それは難しいんじゃないかな?」
「ですよね、それじゃ逆に10000円札1枚を10000円で作れますか?」
「それなら、何枚も作れそうな気がする」
「では、この2つに共通することは?」

「今までの話を総合すると、お金って事ぐらいしかわからないな」

58 :ハットリ六段:2014/05/29 00:37:11 (10年前)  0MONA/0人

「正解です」
「あってるのか」
自分で答えていながら、まだまだわからない。

「つまり、お金と言うのは誰かが決めたルールなんです」
「あぁ、“10円玉は10円の価値がある”って?」
「はい、では最初に戻ります。 “ここ”での10円玉の価値は?」
「0円ってさっき言ったね」

「それは逆に言うと?」
「ここでは10円玉を10円の価値があると決められていない」

「……結構、頭いいですね」

じゃっかん、馬鹿にされていたようだった。

59 :ハットリ六段:2014/05/29 00:43:36 (10年前)  0MONA/0人

「侮られていたのは、なんとなくわかった」
「すいません、最初にあった時はすごいボーっとしてたし、暗かったから」
彼女は手を前に合わせてごめんなさいのポーズを取る。

「……話の続きは?」
「え? あ、はい! ルールが決まっていない以上、10円玉はただの
 銅の塊ですよね? これじゃ誰も交換してくれません」
「交換……交換か」
「良く物を買うといいますけど、本当はこの銅の塊と物を交換してるわけです」
「そう言われると不思議だね、なんで銅の塊と物を交換するのか」

「そこに気づく話が早いです、それこそが最初に話した信頼なんです」
そう言われた瞬間、何かが繋がった気がした。

「銅の塊に……価値があると……信頼する……か」

60 :ハットリ六段:2014/05/29 00:50:23 (10年前)  0MONA/0人

「そうです、偉いですねー」
「どうも」
まるで小学生を褒めるように手を叩く彼女を見ても、素直に喜べない。

「10円玉は10円の価値がある、これを皆が信頼しないと
 10円玉は10円でいられないんです」
「つまり、この世界はこの10円玉が信頼されていない、
 お金として認められていないんだ」
「そうです、この世界はコインと呼ばれる物に価値があると決められています」

「でもそれは最初の“僕が出会った女性がコインをくれた理由”には
 ならないんじゃないかな?」
 
「それは、この世界独特のルールがあるからですよ」
彼女は最初の商店街に足を向けた。

61 :ハットリ六段:2014/05/29 00:53:18 (10年前)  11.4114MONA/1人

■今回は続きなので分岐はなしです。
感想、寄付、レスは随時お待ちしております(実験小説なんで誰もいなくてものんびりやって行きますが)

62 :htp32六段:2014/05/29 06:48:21 (10年前)  0MONA/0人

何となく心が惹かれてます。さらに期待。
ところで、分岐があるときは選択肢が決定されてから書かれているのですか?

63 :ハットリ六段:2014/05/29 12:13:12 (10年前)  0MONA/0人

わぁ、すごいmonaいただいてる。
お気に入りも3だし、自分以外に見てくれてる人がいると思うと頑張れますね。
>>62
基本そうですね、書こうとした時に選択肢の末尾を見て書いてます。
主題と概要さえぶれなければ即興は割と容易ですので。

64 :ハットリ六段:2014/05/30 00:06:39 (10年前)  0MONA/0人

「さっき、ここを通りましたよね」
「あぁ、とても奇妙な商店街だ」
片方にお店が並び、もう片方には書店が並ぶどこまでも続く道。

「ちょっと入ってみましょうか?」
彼女は近くにあったお店に入っていく、
それを追うように自分も続く。

「ここは、家庭用雑貨の店か」
並んでいるのは一般的な台所にあるものだった。
ただし、品揃えは他と比べ物ようもないほど充実している。

「例えば、このお鍋とか値段を見てください」

「えっと…… 0.01…… え?」

65 :ハットリ六段:2014/05/30 00:13:54 (10年前)  0MONA/0人

「何かの間違いじゃないのか?」
「いいえ、この包丁とかは0.002とかで買えちゃいます」
彼女が見せてくれた包丁は、素人目に見ても高そうな物だった。

「これが信頼と期待の内の、期待の方なんです」
「期待……」

「さっきはお金の話をしました。 今度はそれを
 使って交換する物のお話ですね」
「講義は続くのか」
「もちろん、やっと聞く気になってくれたんですから」
この数日、彼女の事を忘れたわけではない。
しかし、彼女とどんな話をしたのかは覚えていなかった。

(もう少し、耳を傾けてみよう)

66 :ハットリ六段:2014/05/30 00:20:24 (10年前)  0MONA/0人

店を出ると、二人はまたゆっくりを商店街を歩いて行く。

「ちなみに、私はいくらだと思いますか?」
「はぁっ!?」
自分はここに来て、初めて大声を上げた。
一瞬だけ周りの人がコチラを向くが、すぐに興味なさそうに通り過ぎて行く。
それほど彼女の言葉に驚いたから。

「えっと……え、待ってくれ。 君の値段?」
「はいっ。 上から下まで全部です」
右手を頭の上に、左手を真下に伸ばして彼女は笑う。
まさか、天下の往来で人を値踏みすることになろうとは。

「1000…………とか」
苦渋の決断だった。

67 :ハットリ六段:2014/05/30 00:26:56 (10年前)  0MONA/0人

「じゃあ1000としましょう」
「……あ、それだけ?」
「え、何か?」
「なんでもない」
心臓に悪い質問だった。

「1000で私を欲しい人がいたら、1000の価値がありますよね。
 でも1000で欲しい人がいなかったら私の価値は1000ではありません」

「逆に1000で欲しい人がたくさんいたら、私は1000以上の価値があります。
 これは、私に期待しているって事になりませんか?」
 
彼女の説明を聞いて、なんとなく腑に落ちる。

「物への期待が、価値になるって事か」

68 :ハットリ六段:2014/05/30 00:34:49 (10年前)  0MONA/0人

「そうです、偉いですねー」
先ほどと同じように、彼女は拍手をする。

「欲しい人がいれば値段は上がりますし、いなければ安くなります。
 あの包丁がどんなに良いものでも値段はどんどん安くなるんです」
「ということは、人が食べる物なんかは常に欲しい人がいるわけだから
 値段は高い?」
「そういうことになりますね、あのお蕎麦だって結構いい値段するんですよ」
歩きながら彼女はため息をつく。

「本当は、もっとこう……お祝いみたいのしたかったんですけど」
「お祝い……なんの?」

「あなたが、ここに来てくれた事にです」
それは、とても意外な言葉だった。

69 :ハットリ六段:2014/05/30 00:41:00 (10年前)  0MONA/0人

「自分のお祝い……?」
「はい。 それこそあなたに、期待しているんです」
また、期待という言葉。

「少し戻るけど、さっきの話は俗にいう需要と供給の話だろう?
 それに、いくら安くなるといっても限度はあるはずだ」
「そうですね、でも“ここ”では違うんです」
彼女は足を止める。

「まずひとつ、ここに原価という概念はありません。
 物がゼロから存在して、期待により価値が上がるんです」
 
「そしてもうひとつ」

「それは私達人間にも……そっくり適用されます」

70 :ハットリ六段:2014/05/30 00:45:28 (10年前)  1.14114005MONA/1人

「この数字が、自分の価値だって?」
「はい、私達三人……あの子も入れての価値はお蕎麦に換算したら数杯分ですね」
こともなく笑う彼女に、初めて自分は底知れぬ何かを感じた。

「それじゃ今度は……」

■モナコイン末尾 1~4
 「この世界の仕組みを説明しますね?」
 
■モナコイン末尾 5~9
 「私達の価値について説明しますね?」

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

71 :htp32六段:2014/05/30 04:54:45 (10年前)  0.00114114MONA/1人

今日は早起き。読んでいて吸い込まれるような…
さらに期待。

…期待って何でしょう?

72 :ハットリ六段:2014/05/31 01:25:02 (10年前)  0MONA/0人

■モナコイン末尾 5~9
 「私達の価値について説明しますね?」

こちらに進みます。

73 :ハットリ六段:2014/05/31 01:33:09 (10年前)  0MONA/0人

「私達の価値について説明しますね?」

自分の価値を考えたことがないかと言われたら、それは嘘だ。
だけどそんなものは誰にもわからないし、誰にも測れない。

しかし、それがもし形ある指標として現れていたら?
そんな嫌な想像がよぎる。

「ここにいる人達は全員、価値を生み出すと期待された人なんです」
「それは自分も、君も?」

「はい、一緒に住んでるあの子もそうです。
 具体的に何かはわかりません、でもそう判断された人がここにいます」

自分に、何か価値があるとは到底思えなかった。

74 :ハットリ六段:2014/05/31 01:40:08 (10年前)  0MONA/0人

「そろそろあの子も学校が終わると思うので、
 ついでに迎えに行きましょうか」
彼女は商店街の道を曲がり、小さい路地へと入っていく。

「もうそんな時間か」
よく考えたら、昼食を食べたのも遅かった。

「時間に余裕はありますし、ゆっくり行きましょう」
おそらく道を知っているであろう、彼女を後ろをついていく。

「さっきの話なんですが、私達はこの世界に来ただけでは
 価値がありません。 そのために私達は色々な事をしなきゃ
 いけないんです」
「話の流れだと、自分を価値のある物に変えるため、かな」

75 :ハットリ六段:2014/05/31 01:49:45 (10年前)  0MONA/0人

「そうです。 そして、その価値はコインや物と同じように
 誰かから価値があると期待されないといけません」
そう言うと、彼女は立ち止まる。

「おかしいと思いませんでしたか?
 あなたがビルで行った仕事に、コインが発生する事自体に」
「それは……」
言い淀む。
確かにあれは、俗にいう賃金が発生するような仕事では無いと思った。

「あそこは、この世界で最低限生きていくためのコインを
 “無意味な労働”という対価に対して払いだす所なんです」

「そしてそれを払いだしている……つまりこの世界のルールを
 決めたのは誰か。 わかりますか?」

76 :ハットリ六段:2014/05/31 01:57:13 (10年前)  0MONA/0人

「判決を下します」

以前聞いたあの言葉が、鈍い痛みとともに蘇る。

「自分や、君がいた……世界だ」
「そういう事です」
彼女は少しだけ寂しそうに笑うと、再び歩き出した。

「私達は、元いた世界で価値のある何かになる事を期待されているんです……」

「だから、生きるための最低限ラインが仕事や学校に行く事で保証されて……」

「才能を伸ばすための物、商店街の物は安価なコインで手に入るんです」

「わかりましたか? これが“私達の価値”なんです」

77 :ハットリ六段:2014/05/31 01:58:19 (10年前)  1.14342342MONA/2人

■今回も続くので選択肢は無し、寄付、レス、質問はどしどしどうぞ。

78 :htp32六段:2014/05/31 20:16:54 (10年前)  0MONA/0人

少しだけ主題が見えたような見えないような…

振り向きたい 生き抜きたいと 揺れる期待

79 :ハットリ六段:2014/06/01 02:47:22 (10年前)  0MONA/0人

小さい川にかかる橋を二人で渡る。

「質問があるんだけど」
「どうぞ」

「このコインには貨幣としての意味がある。
 例えば……絵の才能があった人間は、絵をコインと交換する事で
 多くのコインを得ることが出来る」
 
「そして、コインには期待という意味も込められている。
 その人がさらに頑張れるように、才能を発揮できるように」

「ここまで間違ってないよね」
「はい、大丈夫です」

80 :ハットリ六段:2014/06/01 02:52:03 (10年前)  0MONA/0人

「ということは……だ」
「どうしたんです?」
彼女はまるで先生のように、生徒の質問を待っているいるようだった。

「少し言いにくいというか、なんというか……」
「なんですか? 私の方がこの世界は詳しいんですから。
 遠慮無く聞いちゃって下さい」
「そう?」


「自分が来る前から、君のコインってこんなにカツカツだったの?」


現役(と思われる)女子高生が音もなくスローモーションで崩れ落ちた。

81 :ハットリ六段:2014/06/01 02:57:16 (10年前)  0MONA/0人

「……」
「あの……」
彼女は微動だにしない、放心したように膝をついている。

(しかし、この態度を見るとやっぱりか……)
話を総合すると、この世界は外よりも断然生きやすい。
最低限の保証がされており、自分なりに才能を伸ばしていけば良い。
この世界ならそれこそ子供……あの少女一人でも大丈夫だ。

だが、逆に言えば才能も期待されていない人間は、最低限の
生活以外に何もすることが出来ない。

(まさに、目の前の彼女は……そうなんだろうなぁ……)

82 :ハットリ六段:2014/06/01 03:03:29 (10年前)  0MONA/0人

「あの……あのですね?」
「う、うん?」
ノックアウト寸前のボクサーのように、彼女は立ち上がった。

「別に怠けてるとかじゃないんですよ? 本当ですよ?」
「そ、そうか」

「でも……でもですねっ! 運動もからっきしで、絵も音楽も
 壊滅的にダメで! バイトしたらすぐクビになるんですよ!?」
「それはまた…」

「この世界でクビって凄いですよ!? どっちかって言うと
 職業体験の意味が大きいはずなんですよ?」
「あぁ、商店街のお店が全部アルバイトを募集してたのは
 そういう意味だったのか」

83 :ハットリ六段:2014/06/01 03:07:10 (10年前)  0MONA/0人

商店街で彼女が言った「働いてみますか?」と言ったのは
自分にその才能があるかもしれないと思ったからか。

「考えてみてください、職業体験に来た人に
 もう来ないで下さいって普通言いますか!?」
「あー……」
完全に涙目になっている彼女から目をそらす。

「だから、とりあえず学校行って生活費だけ貰って過ごしてたら、
 今度はあの子も来るし……」
「あの子……?」

「朝あったあの子です、突然同居人って事で連れて来られたんですよ」

84 :ハットリ六段:2014/06/01 03:08:51 (10年前)  2.38114009MONA/3人

「あの子はいったい何者なの?」

■モナコイン末尾 1~4
 「知りません」彼女はブツブツ何かを呟きながら歩き出した。
 
■モナコイン末尾 5~9
 「少ししか知りません」彼女は歩き始めた。

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

85 :お腹すいた名無し六段教士:2014/06/01 08:56:23 (10年前)  0MONA/0人

ほい

86 :htp32六段:2014/06/01 09:18:05 (10年前)  0MONA/0人

女の子は2人いたんだっけ。不思議な空間。

87 :名無し五段:2014/06/01 14:51:41 (10年前)  0MONA/0人

開始ごろからずっと楽しみに読ませてもらってます
そろそろ核心ぽくてwktk

88 :ハットリ六段:2014/06/01 20:47:10 (10年前)  11.525514MONA/2人

大体10日ほどほそぼそと書き続けていますが、
少しづつ見てくれてる人が増えているようで嬉しい限りです。
すでに20monaという、採掘だったらどれだけ大変かという寄付をいただいていますが、
これが普通のお金にはない「期待」と受け取り、これからも頑張ります。

お話の途中で細かい事を話すのは興が削がれると思いますので、ひとまずお礼を。

89 :htp32六段:2014/06/02 18:21:03 (10年前)  0MONA/0人

結構ばらまきをしている私が主張してもアレかもしれませんが、ただの数字のやり取りでなくて
実質的な価値の交換がなされることは、なんか少し嬉しいのです。

もちろん採掘者や交換所の存在は、暗号通貨には必要です。しかし、数値だけが行き来するのは
どこか空しくて、本末転倒だと思っています。

最後まで出来上がった文章を読む機会は多いですが、展開がわからないという状況は、私の心に期待を生みました。
このような実のあるコンテンツには、多くの報酬があっていいと思うのです。

90 :ハットリ六段:2014/06/02 23:51:24 (10年前)  0MONA/0人

■モナコイン末尾 5~9
 「少ししか知りません」彼女は歩き始めた。

こちらに進みます。

91 :ハットリ六段:2014/06/03 00:01:05 (10年前)  0MONA/0人

「少ししか知りません」彼女は歩き始めた。

「ここに連れて来られて、とりあえず色々やってみようと思ったけど
 上手くいかなくて、ずっと学校に行っていました」

「そんな日が結構続いて、しばらくしたらあの子がやってきたんです。
 連れてきた係の人が“あなたに最適と診断された”って」
「君に、最適?」

「はい、意味はわかりませんけど……貴方が来た時も言っていましたよ?」
「自分もか……」

そう言われても、自分が誰かと過ごす事が最適とは思えない。
亡くなった妻の顔が、昼間の太陽にあわせてラッシュバックする。

92 :ハットリ六段:2014/06/03 00:15:02 (10年前)  0MONA/0人

「あの子は、今は元気ですけど最初は全然喋らなかったんです。
 ずっと部屋の端っこで、こっちをジーっと見てるだけでした」
彼女は思い出すように空に視線を向ける。
ふと、彼女もあの子も、なぜここに来たのか疑問に思った。

「人って不思議ですね、こんな私でも元気が無い子を見ると
 放っておけなくなっちゃったんです」

「それから、話しかけたり好きそうな物を買ってみたり、
 いろんな事をしました」
 
「あの時は大変だったなぁ……あの子の分もコインが必要だったし
 何か喜ぶことしてあげようって……あ、アルバイトもハシゴして」
 
ここで言うハシゴは、一日置きに店が変わったという事だろうか。

93 :ハットリ六段:2014/06/03 00:23:15 (10年前)  0MONA/0人

「たぶん、生まれて初めてかもしれません、あんなに頑張ったの」
「それから?」

「はい、今日の朝食を見たと思いますけど、私料理苦手なんです。
 いや……他もダメ……なんですけど」

「話しかけても返事もくれないし、何を渡してもつまんなそうで、
 でも、ご飯だけはちゃんと食べてくれたから、それが嬉しくて……」
 
「朝は一緒に食べて、お昼はお弁当作っておいて、夜はまた一緒に食べる。
 お昼だって、ちゃんとお弁当食べてくれたんですよ?」
 
ふと、目を細めると遠くに学校らしき建物が見える。

「そしたら、ある日……」

94 :ハットリ六段:2014/06/03 00:31:19 (10年前)  0MONA/0人

「結構……その生活も限界が来てて、なんでこの子は私の所に来たんだろうとか
 なんで私だけ……って元の世界の事も思い出したりして」

「朝食を作りながら、いつの間にか手が止まってて……。
 なんとなく“もうダメだ”って思ったんです」
 
「その時、後ろから音が聞こえてきたんです」
「音?」

「えぇ、カチャカチャって、聞いたことがある音なのに
 何の音か最初わからなかったんですけどね」

「それで、思わず後ろを振り向いたら……」

95 :ハットリ六段:2014/06/03 00:33:54 (10年前)  0MONA/0人

あの子が、お皿を並べていたんです。
それが、カチャカチャって音を立てていて。
私が見ているのを気づいたあの子は、ビックリした顔をして。

一度だけ顔を伏せて

しっかり顔を上げて


「手伝う!」


そう言ったんです。

96 :ハットリ六段:2014/06/03 00:39:38 (10年前)  0MONA/0人

「気がついたら私、泣いていました。 何をやっても上手くいかなかった
 自分が、初めて誰かに見てもらえた気がして」
 
「それからは、あっという間ですよ。 今じゃあ……」
彼女がそう言ったと同時に腕輪が軽く振動する。
腕輪の数字は1.0単位で増えていた。

「学校も行くし、歌って踊って、皆から期待される子になりました」

その時彼女が自分に見せた笑顔は、まるで自分の誇らしい家族を
紹介するような、そんな温かい表情だった。

(なるほど、彼女にとっての最適な相手……か)

さて、自分はどうなのだろう?と考えつつ、学校への道を歩いた。

97 :ハットリ六段:2014/06/03 00:40:15 (10年前)  1.14228228MONA/2人

■続きますので選択肢は無しです、レス、感想、寄付も随時お待ちしています。

98 :htp32六段:2014/06/03 22:18:52 (10年前)  0MONA/0人

読んでます。

99 :ハットリ六段:2014/06/04 00:52:57 (10年前)  0MONA/0人

─…

「あー!」
大きな声がする方を向くと、今朝のあの子が口を開けてこちらを指さしていた。

「なんでいるの!?」
「迎えに来たんだよー」
少女は飼い主を見つけた犬のように駆け寄ってくる。

「ホント!?」
「うん、一緒に帰ろう?」
彼女と少女のほのぼのとした会話を聞いていると、さっきの話が嘘のようだ。

「……ちっ」
ちょっと奥さん、今この子、自分を見て舌打ちしましたよ。

100 :ハットリ六段:2014/06/04 00:58:31 (10年前)  0MONA/0人

「おじさんも、一緒にお迎えに来たんだよ」
「……」
彼女の説明も意に介さないように不満気な顔をする。

「や、やぁ」
「……」
今朝は多少打ち解けたが気がしたが、どうやら錯覚だったようだ。
さっきの輝くような笑顔はどこにもなくて、ただひたすらコチラを
不審げに睨んでいる。

「ほら、睨んでても日が暮れちゃうだけだから帰ろう?」
彼女は少女の頭を軽く撫で、自分に軽く目配せをすると歩き出した。

(今はこの距離……か)
二人の後ろを、ゆっくりとついていく。

101 :ハットリ六段:2014/06/04 01:04:20 (10年前)  0MONA/0人

「今日は学校で何をしたの?」
「えっと、算数と国語と……お絵描きとお歌!」
「そう、コインも沢山もらえた?」
「うん! お歌が上手って言われて貰ったよ!」

(驚いたな……コインの話もするのか)
彼女達の会話は、傍から見るととても生々しい。
十歳に満たない少女に、お金を稼いできたのか?と聞いているようなものだ。

(でも…“ここ”では違う)
少女はただ歌を歌って、その期待を形にして貰っただけだ。
ただ単に、それがここでは価値があるという事。

「コインは学校の先生がくれるんですよ」
胸の内を読んだように、前を歩く彼女は振り返ってそう言った。

102 :ハットリ六段:2014/06/04 01:13:57 (10年前)  0MONA/0人

「学校の先生のコインはどこかから出てるのかな」
「いいえ、全部先生本人のコインですよ」

学校の先生も、この世界にやってきた人が務めている。
先生は教員という職業をこなしつつ、受け持つ生徒に期待をかける。
生徒の成長と成果は、巡り巡っていずれ「生徒を正しく育てる先生へ期待」
として自分に戻ってくる。

彼女はこんな話を自分に話して聞かせた。

「ここでは、度を越して大量にコインを持っている事はあまり意味がありません。
 えーっと……なんでしたっけ……こういうことわざがあったような」

「金は! 天下の! 周りもの!」
彼女の言葉に続けるように、少女が大声を上げる。

103 :ハットリ六段:2014/06/04 01:23:13 (10年前)  0MONA/0人

「あ、そうだね。 つまり、自分の所で止めないで回している方が、
 長い目で見ると皆が幸せになるんですよ」
「なんだか、よく出来た世界なんだな」

それが素直な感想だった。
もちろんこれが外の世界でも通用するとは思えない。
物には原価があって、お金にはお金という価値しか無い。
でもここでは、自分の才能を探すことが自分の価値に繋がり、
目に見えるコインという形で現れる。

楽しそうに前を歩く二人を見て、ようやく何かがわかった気がした。

「自分は……いや俺は……自分の価値を探すためにここに来たのか」

104 :ハットリ六段:2014/06/04 01:26:21 (10年前)  1.14114005MONA/1人

俺に価値は無いと思っていた、生きる資格も無いと。
そんな俺が、見つける事が出来るのだろうか?

■モナコイン末尾 1~4
 俺は彼女に聞いてみた。
 
■モナコイン末尾 5~9
 俺は少女に聞いてみた。

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

105 :ハットリ六段:2014/06/04 23:39:22 (10年前)  0MONA/0人

■モナコイン末尾 5~9
 俺は少女に聞いてみた。

コチラに進みます。

106 :ハットリ六段:2014/06/04 23:55:29 (10年前)  0MONA/0人

俺に価値は無いと思っていた、生きる資格も無いと。
そんな俺が、見つける事が出来るのだろうか?

俺は少女に聞いてみた。

「なぁ、俺もこの世界に来た意味があるのか?」
「……知らない」
少女はコチラを一瞥し、それだけを言って正面を向く。

「そうだよな、そんなの君にわからないよな」
「でも、ここに来れる人は才能があるって判断された人」
「え?」

「おじさんも、そうだって事!」
おじさんか……おじさんだけどさ。

107 :ハットリ六段:2014/06/05 00:07:37 (10年前)  0MONA/0人

少女の言葉は端的ではあるが的を射ていた。
この世界に来る以上は、きっとなんらかの素質がある……はず。

俺は彼女に声をかける。
「あの、朝言ったことなんだけど」
「えっと、何か言いましたっけ?」

「ご飯を作る……って奴んだが」
「あー、確かに言ってましたけど」

「やっぱり、手伝わせてくれないか?」
「それは、別に構いませんけど。 どうしたんですか?」

「試してみたいだ、自分が何を出来るのかを」
「……ふふ」

108 :ハットリ六段:2014/06/05 00:14:51 (10年前)  0MONA/0人

彼女は軽く微笑むと、手首の腕輪を軽く操作する。
数秒して自分も含めて腕輪が軽く震えた。

数字の表示は1.0が減って、程なく1.0が増えた。

「えへへ、お財布が共同だから意味ないですけどね。 私からの期待です」
「……ありがとう」

こんな小さい事で、心が軽くなった。
何が出来るかわからないが、やってみようという気力が湧いてくる。

「ん?」

腕輪の数字が0.00001減って、0.00001増えた
少女がニヤニヤしながらコチラを見ている。

109 :ハットリ六段:2014/06/05 00:16:14 (10年前)  1.14114114MONA/1人

「期待してる!」
「おぅ、ありがとよ!」
バカにしているのかもしれない、でもそれは目に見える形として存在している。
ゼロじゃない、それがなぜか嬉しかった。

■続きます。

110 :ハットリ六段:2014/06/06 00:01:35 (10年前)  0MONA/0人

─アパート

「はい到着、ただいまー」
「ただいまー!」
「えっと……」
彼女と少女は靴を脱ぐと部屋に入っていく。
その背中を見つめながら、自分は一瞬躊躇した。

「どうしました」
「いや……ただい……ま」

「「おかえりなさい」」
俺の言葉に彼女と、そして少女もそう言ってくれた。
心が暖かくなるような、こそばゆい感じがした。

111 :ハットリ六段:2014/06/06 00:09:34 (10年前)  0MONA/0人

─…

「それでは、夕飯を作ります!」
すでに不安の限界を超えそうな彼女は、それでも精一杯調理開始を宣言した。
隣でのんきに拍手をする俺、そしてそんな俺達を見て拍手する少女。

「今日は、ゲストとしてお手伝いさんがいらっしゃいました!」
「…………あ、俺の事か」
「はい、今日は二人で料理を作って見ましょう」
「ときに、今日のメニューは?」
「オムライスです!」
彼女はそう言いながら、料理の本を片手に材料を準備していく。
その顔は必死そのもので、見てるコチラが心配になるぐらいだった。

(これが目に入らなかった俺は、一体どれだけ落ち込んでいたんだ)

112 :ハットリ六段:2014/06/06 00:20:59 (10年前)  0MONA/0人

「なぁ、いつもこんな感じだったのか?」
材料の用意に必死な彼女を横目に、こっそりと少女に話しかける。

「うん、いつもこうっ!」
「そうか、そうじゃない時はあったかな」
「レンジでチンの時かなー?」
なんだか、不味い気がしてきた。

「大丈夫……ご飯を炒めて……味付けして……卵を焼いて……大丈夫」
うん、呟いている言葉だけなら正しい。
その必死な顔と震えてる手が見えていなければ、だけど。

113 :ハットリ六段:2014/06/06 00:21:14 (10年前)  1.14114005MONA/1人

■モナコイン末尾 1~4
 「下ごしらえは俺がするよ」と彼女に言った。
 
■モナコイン末尾 5~9
 「火を使う調理は俺がやるよ」と彼女に言った。

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

114 :ハットリ六段:2014/06/08 00:13:14 (10年前)  0MONA/0人

■モナコイン末尾 5~9
 「火を使う調理は俺がやるよ」と彼女に言った。

コチラに進みます(土日はちょっと書けないかもです。

115 :ハットリ六段:2014/06/09 23:11:58 (10年前)  0MONA/0人

「火を使う調理は俺がやるよ」と彼女に言った。
「本当ですか!?」
こんな事でここまで喜べるのかと思うほど、彼女は喜んだ。

「実は、焼いたり炒めたりって苦手だったんです」
「そう他に苦手なのはあるのか?」
「えっと……切ったり刻んだりとか」
「なるほど、もうパーフェクトだな」
詰まるところ、料理が苦手らしい。 そう言えば朝にもそう言っていた。

「とりあえず、ゆっくりやろうか」
「はい……!」
これなら自分がやったほうがいいような気もするが、
あえてそうせず、彼女の一挙手一投足に気を配る。

116 :ハットリ六段:2014/06/09 23:17:38 (10年前)  0MONA/0人

「よっ!」
顔に似合わず威勢のいい掛け声と共に包丁が振るわれる。
危なっかしい所はあるが、順調に切れているようだ。

「私ですね……っ 実は……っ 包丁持ったの……っ」
「話はいいから、切るのに集中して」
「はい……っ」
ぎこちなさを見るだけで察しは付く、彼女は包丁を持ったことがない。
それでもこの少女が来てから、一念発起して料理を始めたのだろう。

(そこに俺まで転がり込んで来たんだから、相当困ったろうなぁ)
目の前で必死に材料を刻む彼女を見ながら、すまない気持ちでいっぱいになった。

「どれ、少し貸してみて」
彼女の手を止めて包丁を借り受ける。

117 :ハットリ六段:2014/06/09 23:21:07 (10年前)  0MONA/0人

「あっ……」
「よく頑張った、後は任せて」
そう言ったが、別に俺は料理が上手いわけではない。
ただ、料理が“必要になって”覚えただけだ。

「包丁は……」(リズミカルに)
「リズミカルに……」(トントントンって……)
「トントントンって……ってな」
少なくとも、彼女よりは軽快に刻まれていく材料。

「お料理、お上手なんですね」
「んー、まぁ少しだけ」
「あの……でも……」
「どうした?」

118 :ハットリ六段:2014/06/09 23:24:53 (10年前)  0MONA/0人

「なんだか、細かすぎませんか?」
「え? あっ……」
調子に乗っていたら、材料は一口サイズよりもさらに小さくなっていた。

「しまった、つい癖で」
「癖ですか? 変わってますね」
「あぁ……えっと、なんだっけ?」
思わず癖だと口をついたが、その理由が思い出せない。

「ヒマー!!」
「きゃあっ!?」
驚いて後ろを振り向くと、明らかに手持ち無沙汰で暇を持て余した少女が
仁王立ちしていた。

「ご、ごめんね? もうすぐ出来るからね?」

119 :ハットリ六段:2014/06/09 23:29:27 (10年前)  0MONA/0人

「ヒマっ!」
「なるほどな」
お腹が空いたとかではなく、この料理教室に混ざりたいわけだ。
かといって、今日の料理で手伝えることは無いわけで。

「こっちは、いいから。 そっちのチビとテーブルの支度してくれ」
「お任せしていいんですか?」
「ここ数日の無気力な俺を養ってくれたお礼だと思ってくれ」
「ふふ、わかりました」
彼女は少女に声をかけると、二人は笑いながらすぐ後ろでテーブルの支度を始めた。

(さて、後は炒めて卵で閉じれば……)
俺は早々に料理を再開した。

■続きます

120 :ハットリ六段:2014/06/11 23:54:26 (10年前)  0MONA/0人

─…。

「それでは」
「「いただきます!」」
合図と共に、三人の食卓が始まった。

「味見はしたが、どうだ?」
「うん、美味しいです!」
「おいしい!」
簡単な料理だったのが功を奏したようで、評判は上場だった。
自分も目の前のオムライスを口に運ぶ。

「うん、まぁ……普通だな」
こういうのは自分で作っても美味しく無いと、なぜか納得した。

121 :ハットリ六段:2014/06/11 23:59:07 (10年前)  0MONA/0人

そう思いながら、目の前で楽しそうに食べる二人を見る。
その光景がとても眩しくて、なんとなく自分が遠くに来たような気がした。

「どうしました?」
「いや、なんだか姉妹みたいだなって」
「本当ですか?」
「お姉ちゃんは、お姉ちゃんだよ?」
少女は屈託なく言い放つ、それが二人の信頼の深さなのだろう。
帰り道で聞いた最初の話が、信じられないぐらいだ。

「さて、それじゃちょっと真面目な話をしようか」
「なんでしょうか?」
俺の雰囲気を感じ取って、彼女は居住まいをただした。
少女もそれに習い、少しだけ真面目な顔をする。

122 :ハットリ六段:2014/06/12 00:08:40 (10年前)  0MONA/0人

「君と俺の、才能を探す必要がある」
「どういうことですか?」
「ここは外の世界で生きていけなかった人間が来るところだ」
「それは……」
「そんな人間が、いつまでもここで悠長にしてられる道理はない。
 この生活がいつ、突然終わってもおかしくないんだ」
彼女は俺の言葉を聞いて表情を曇らせる。

「念の為だが、ここに来る時に何を言われたか教えてくれないか?」
「えっと、この部屋の事と、腕輪の事、才能の事とそれから…」
「それから?」「

123 :ハットリ六段:2014/06/12 00:09:56 (10年前)  1.14114004MONA/1人

■モナコイン末尾 1~4
 「最後にこの世界の事を一つだけ言っていました」
 
■モナコイン末尾 5~9
 「最後に私の事を一つだけ言っていました」

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

124 :htp32六段:2014/06/13 20:23:37 (10年前)  0MONA/0人

読ませていただいてます。

125 :ハットリ六段:2014/06/14 01:12:22 (10年前)  0MONA/0人

■モナコイン末尾 1~4
 「最後にこの世界の事を一つだけ言っていました」

こちらに進みます。

126 :ハットリ六段:2014/06/14 01:50:49 (10年前)  0MONA/0人

「最後にこの世界の事を一つだけ言っていました」
「なんて?」

「この世界の答えは、人それぞれだ……って」
「答えは人それぞれか」
抽象的な言葉だったが、なんらかのヒントになるかもしれない。

「あの……それでですねっ!」
気が付くと彼女は、テーブル越しに顔を近づけていた。
印象的な目鼻立ちが数センチの距離に迫る。

「ど、どうした?」
「私に、一体どんな才能があるんでしょうか?」
あまりにもシンプルで答えに困る質問だった。

127 :ハットリ六段:2014/06/14 01:57:21 (10年前)  0MONA/0人

答えには困るが、言い出したのは自分だし彼女にもそれを見つけてほしいと思っている。

「料理……は、苦手なんだよな」
「はい、あと運動も……です」
「細かい仕事は?」
「裁縫はやってみましたが……」
彼女はチラリと視線を備え付けの棚に移す。

「途中までは頑張ったんですが、指が穴だらけになるし布が赤く……」
「待て、その話はストップだ」
手を振って慌てて話を止めさせる、不器用なのはよくわかった。

「姉ちゃん、お話作るの上手いよ?」
「え?」
ご飯を食べ終えた少女は、唐突にそう言った。

128 :ハットリ六段:2014/06/14 02:35:04 (10年前)  1.14114114MONA/1人

「そうなのか?」
「え、えぇえ!?」
彼女を見ると、言われた本人が一番驚いていた。

「寝る時にいつもお話を作ってくれるの、凄い面白いんだから」
「あ、あれはいつも適当に作ってるだけです」
「いや、そういうのが逆にいいかもしれないぞ」
少なくとも、この少女が彼女の才能を認めている。
それは世界では大事な「期待」だ。

「話を作るのは好きなのか?」
「えっと、はい。 小さい頃から本を読んでいて異世界とか
 そういうのに憧れていました」
 
 ■続きます。

129 :ハットリ六段:2014/06/16 23:42:52 (10年前)  0MONA/0人

少しだけ恥ずかしそうに彼女は続ける。

「私は小さい頃から友達が少なくて、いつも家で一人で本を読んでいました。
 本を読んでいる時だけが、私の寂しい時間を埋めてくれたんです」
「そうか」
今日1日彼女を見てきて、不器用なのはわかっていた。
手先の話ではなく、生きる事がとても。
そんな彼女がなぜここに一人でやってきたのかも、気にはなるが……

「おい」
隣に座る少女を肘で突く

「ん?」
振り向いた彼女に自分の腕輪を見せ、次に彼女を指差した。

130 :ハットリ六段:2014/06/16 23:46:49 (10年前)  0MONA/0人

「……!」
合点が言ったように目を見開く少女を、不思議そうに彼女は見ている。

「よし、決めたぞ」
「何をですか?」
「明日から、俺達は君の創作活動に協力する」
「する!!」

「ええっ!?」
素っ頓狂な声が狭い部屋に響く。

「まずは道具一式を揃えなきゃならならない。
 いくら安くても多少は出費が必要だな」
「だな!」
「あ、あのちょっと!?」

131 :ハットリ六段:2014/06/16 23:51:34 (10年前)  0MONA/0人

「やってみなきゃわからん事は、やってみたほうが早いだろ」
「それはそうなんですが、あ、あまりにも唐突というか!?」
「いいんだよ、それぐらいで」
彼女に言っているようで、まるで自分に言っているような気がした。

「それにな、俺達が貰った期待を君にあげたい」
「……え?」

「俺にしてくれた事、このガキを世話した事。
 その気持ちを形にしたい。 お前もだろ?」
「うん!」
少女は手を大きく広げて頷いた。

「だから、話作りに必要な道具は俺達が揃える!
 それぐらいは協力させてくれ」

132 :ハットリ六段:2014/06/16 23:56:08 (10年前)  0MONA/0人

「……えっと」
まだ逡巡する彼女を横目に、俺は少女に向き直る。

「なぁ、これどうやるんだ?」
「えっとね、ここを……押して……相手に向けて……ここ押すの!」
「お、おお。 なるほどな」
「あの、何を……?」

「それじゃ、こ、れ、で……オッケーだな」
「私もー!」
そして二人同時に、腕輪を彼女に向けるとスイッチを押す。
軽い振動が消え、腕輪の数字はゼロになり、再び元に戻った。

「うーん、やっぱり共同資産だと実感沸かないかな」
俺は頭をかく。

133 :ハットリ六段:2014/06/16 23:58:50 (10年前)  0MONA/0人

「あの、ふたりとも……」
彼女の目には、少しだけ涙が浮かんでいた。

「俺達からの期待だ、数字は変わんないけどな」
「えへへー!」
彼女は一瞬口を開きかけるが、慌てて閉じて下を向く。
手の平は、顔を覆っていた。

「私……字とか汚いんです」
「別に、いいんじゃないか?」

「話も……長いし……」
「私は好き!」

「上手くいかないかもしれません……」

134 :ハットリ六段:2014/06/17 00:02:53 (10年前)  1.14114114MONA/1人

「そうなったら、また探せばいい」

「……」
少しの間が空いて、彼女は顔を上げる。

「わかりました、やってみます」

「だって私……だ、誰かに……」

「期待されたの……始めてですから」

ずっと何かに耐えていたのだろう。
我慢の限界を超えた彼女は、そう言った後に泣き崩れた。

■続きます。

135 :ハットリ六段:2014/06/19 00:19:44 (10年前)  0MONA/0人

─翌日

昨日までとは違う、はっきりとした目覚め。
耳を澄ますと台所から朝の支度をする音が聞こえてくる。

(昨日は気付かなかったけど、随分とたどたどしい音だ)
「んぅ……」
隣を見ると、少女が布団の中で寝返りをうっていた。

「ほら、そろそろ起きるぞ」
「んぅ……」
揺する手を本能的に振り払うと、少女は再び眠りに落ちていった。

(まぁ、いいか)
ゆっくりと布団を抜けだすと、ハンガーに掛けたスーツを手にとった。

136 :ハットリ六段:2014/06/19 00:30:25 (10年前)  0MONA/0人

昨日とは違った気持ちでスーツに袖を通す。
体が誰かのために働く事を思い出したようだった。

「おはようございます、早いですね」
「おはよう、勝手に目が覚めただけだよ。
 それより本当に手伝わなくて良かったのか?」
「はい、料理はここに来て自分から始めた事ですから」
「上達するよう、期待してる」
「あの、これは趣味なので! 別に上達とかは、そのっ……」
とんでもないとでも言いたげに手を振る彼女を見て、なんとなく嬉しくなる。

「さて……ほら、本当に起きろ! 遅刻するぞ!」
俺は少女が丸まっている布団を引剥がした。

「うぅー……」

137 :ハットリ六段:2014/06/19 00:33:59 (10年前)  0MONA/0人

「おきろーーーー!!」
「うるさーーーーい!!」
負けじと大声を出す少女、思わず耳を塞ぐ彼女。

「すぐ起きるって言ったじゃん!」
「言ってねぇよ!」
「言ったもんね!」
「ほーう、いつかな? 何分前かな? んんっ!?」
「ふ、ふたりとも! さぁ、朝ご飯食べましょう!」
取っ組み合いが始まりそうな雰囲気に彼女は慌てて割って入る。

しかし、大人げないことをしてしまった。

138 :ハットリ六段:2014/06/19 00:39:59 (10年前)  0MONA/0人

─…。

「よし、メシも食ったし行くか!」
「はーい!」
「は、はーい……」
一生懸命作った(と思われる)朝食をつつがなく終え三人は出発の支度を整えた。

「今日からはしっかり稼がないとな」
「あの、あんまり無理しないでくださいね?」
「いや、コインはあるだけあった方がいい、そうだろ?」
腕輪に表示された数字に目を向ける。

「そうだ、今日は夜まで仕事してくるから」
「はい、わかりました。 夕飯作って待ってますから。
 早く帰ってきてくださいね?」

139 :ハットリ六段:2014/06/19 00:42:28 (10年前)  1.14114114MONA/1人

(早く帰ってきて下さいね?)

「……なんだ」
「え? どうしました?」
「……いや、なんでもない」

彼女の言葉を聞いた瞬間、何かを思い出したような気がする。
誰の、誰の言葉だったのか……。

さっきまでの気持ちに、少しだけ影が差し込んだ気がした。

■続きます。

140 :ハットリ六段:2014/06/21 19:37:48 (10年前)  0MONA/0人

二人に手を振り別れると、昨日と同じ道を歩き始めた。
昨日は訳も分からず歩いているようだったが、今は違う。
この世界の状況も理解できたし、目標もある。

(あの子の夢をなんとか叶えてあげたい)
そのためには先立つモノが必要というシンプルな答え。
俺はあの無機質で大きなビルへ向かった。

─…

「おはようございます」
執務室に入り挨拶をすると、責任者と思わしき男は昨日と同じ姿でそこにいた。

「おはよう、名前を」
ロボットか、こいつは。

141 :ハットリ六段:2014/06/21 19:45:40 (10年前)  0MONA/0人

昨日と同じように名前を告げると、部屋番号と席を言い渡された。

「そうだ、実は昨日途中で退室してしまったんですが」
そう言うと責任者らしき男は書類から目を離しコチラを睨む。

「途中までの作業も、給料は出ますか?」
「……えぇ、もちろんでます。 このプールではね」
プールと言う言葉の意味はわからなかったが、給料が出ると聞いてひと安心する。
男は、軽く端末を操作するとほどなく腕輪が振動しコインが増えた。

「どうも」
お礼を言った時にはすでに、こちらに興味がなくなったように書類に目を通していた。
すでにお互いに用事はないので、そのまま執務室を抜ける

「さて、それじゃ頑張りますか」

142 :ハットリ六段:2014/06/21 19:51:02 (10年前)  0MONA/0人

─…

どれぐらいだの時間がたったろうか。
ただ計算を解いていくだけの作業を繰り返していると、不意に画面に「Hit」と出た。

(何だこれ?)
画面は一瞬そう表示されただけで、すぐに消えてしまい、
また新しい計算式が表示されている。
辺りを見回しても、もちろん親しい人間はいないし解説してくれる人もいない。

(よくわからんけど、区切りもいいしメシでも食うか)
時計を見ながら、腕輪にも目をやると、少額ながらも減っていた。

(あいつらもメシ食ってんだなぁ)
数字の変化で彼女達の人となりがぼんやりと想像できる、なんだかそれがおかしかった。

143 :ハットリ六段:2014/06/21 19:52:36 (10年前)  1.14114004MONA/1人

さて……飯をどこで食うか?

■モナコイン末尾 1~4
 パンでも買って屋上で食おう。
 
■モナコイン末尾 5~9
 食堂があったな、そこで食おう。

■モナコイン末尾 0
 どちらかランダム

144 :お腹すいた名無し六段教士:2014/06/26 16:03:21 (10年前)  0MONA/0人

あげ

145 :ハットリ六段:2014/06/27 00:05:48 (10年前)  0MONA/0人

■モナコイン末尾 1~4
 パンでも買って屋上で食おう。

コチラに進みます。

146 :ハットリ六段:2014/06/27 00:16:34 (10年前)  0MONA/0人

(パンでも買って屋上で食おう。)
そう思い立つと、案内板を頼りに購買のような場所を探した。

─…。

屋上のドアを開けると、涼しい風が自分を包み込んだ。
陽気は暖かく、空を見上げると遠くに大きな雲が見えた。

「いい天気だ」
「夕方は雨だそうだが?」
「うぉあっ!?」
いきなりかけられた声に驚き飛び上がると、隣に昨日の女性が立っていた。

「い、いきなり話しかけないでくれます?」
「そうか、すまん」

147 :ハットリ六段:2014/06/27 00:21:07 (10年前)  0MONA/0人

彼女も同じようにパンを持っていた。

「あれ、食べてないんですか?」
「君が来るような気がしたからな、少しだけ待ってたんだ」
「や、別に約束してないですよね」
「いいんだよ、私が好きで待っていたんだ」
「はぁ……」
見ず知らずの女性に待たれるというのは、なんとも言えない気分だった。

「そう言えば、昨日とは随分見違えたみたいだ。 何かあったかな?」
「そう……ですね、はい。」
昨日からの事を思い出すと、元気な少女と、頑張っている彼女が思い浮かんだ。

「こういうとおかしいかもしれませんが、家族が出来た気がしました」

148 :ハットリ六段:2014/06/27 00:31:47 (10年前)  0MONA/0人

「……」
彼女はやや驚いた表情を浮かべてこちらを見ている。

「なんですか?」
「君は、ここに来る前の事を思い出したのか?」
その言葉で、忘れられない女性の事を思い出す。

「いいえ、昨日からあまり変わっていません」
「そうか無理に思い出さなくていいぞ」
彼女はそう言ってから、パンが入った袋を開ける。
それにつられるように自分も袋を開けた。

「あなたは、一体何者なんですか?」
「……君の、知り合いさ」
彼女はそう言ってパンを頬張る。

149 :ハットリ六段:2014/06/27 00:36:37 (10年前)  0MONA/0人

パンを食べ終わると、先ほどの事を思い出した。

「そうだ、さっき計算してる時にhitって画面に出たんですが」
「ほう、それは良かったな。 まぁボーナスみたいなものだと思ってくれ」
強い風がふき、自分と彼女は目を細める。

「ボーナスですか?」
「ここの仕組みは意外と簡単で、自分がどれだけ貢献したかによって給料が決まる。
 しかしそれじゃあ張り合いがないと、稀にそういうボーナスが出るのさ」
「それはいいこと聞いた。 何かを買って行ってやろうか」

「それなら、嗜好品を買うといい」
「嗜好品……ですか?」
「この世界は、才能に繋がるものを買うと安いが、それ以外はとてつもなく高い。
 そういう時以外は手が中々出ないだろう」

150 :ハットリ六段:2014/06/27 00:37:19 (10年前)  1.14114114MONA/1人

■続きます(更新遅れてすいません。 実はお絵描きスレで一枚絵を描いてました。)

151 :ハットリ六段:2014/07/01 22:44:13 (10年前)  0MONA/0人

「さて、私もそろそろ戻るとしようか」
彼女は大きく伸びをすると入り口に向かって歩き始めた。

「そう言えば、あなたはなぜここにいるんですか?」
「ん、私か? 特に理由はないよ、外にいても意味が無かっただけさ」
「はぁ……」
この世界に、理由もなく来れるものなのだろうか?
その疑問に答えるものは、もうその場に居なかった。

─…

「あー……疲れたっと」
適当なところで区切りをつけ、俺はビルを出た。
手元の腕輪を見ると、少ないながらも数字が増えているのが分かる。

152 :ハットリ六段:2014/07/01 22:48:26 (10年前)  0MONA/0人

午後の仕事の途中で、数字は何度か増えたり減ったりした。
彼女達が学校を終えて、どこかで買い物をしたのだろう。

(期待が数字に現れる、それは良い反面悪い事でもあるな)

つまりは数字が低いという事は、才能がない、期待をされていないという証でもある。
少しづつでもこのコインは貯めていかなければならない。

(これが共有って事は……まさか三倍って事は無いよな……)

他の人間がどういうシステムでやっているのかわからない。
なぜさっき屋上で彼女に聞かなかったのか。

(まぁ、いいか。 明日にでも聞いてみよう)
夜も遅いし、今日はまっすぐに家路を歩いた。

153 :ハットリ六段:2014/07/01 22:59:09 (10年前)  0MONA/0人

「おかえりなさい」
「おかえりー!」
「お、おう。 ただいま」
チャイムを鳴らすと、ほどなく二人がドアを開けて出てきた。

「あの、なんでチャイムを鳴らしたんですか?」
「なんとなく、だけど」
間違っては居ない。
鍵は貰っていたが、自然と家に入るのはなんとなく躊躇われた。

「いつ帰ってくるのかわからなかったけど、ちょうどで良かったです」
彼女はそう言って奥へと戻っていく、中からは美味しそうな匂いがした。

「おい……今日の料理は?」
「大丈夫!」

154 :ハットリ六段:2014/07/01 23:07:32 (10年前)  0MONA/0人

少女は元気に答える。

(大丈夫って言うのは、料理に使う表現なのだろうか……)
「今日は私も手伝ったんだよ」
「そうか」
少女の頭を軽く撫でてから、靴を抜いだ。

─…

「ごちそうさま」
料理は簡単な炒めもの、少女の言ったとおり味は問題なかった。

(家に帰ってきて暖かい料理があるなんて久しぶりだな……)
頭の中に浮かんだ、小さなひっかかり。
久しぶりなのは間違いない、いつから、いつからだろう?

155 :ハットリ六段:2014/07/01 23:14:35 (10年前)  0MONA/0人

「あの、ちょっといいですか?」
「ん?」
洗い物係を受け持って流し場に立っていると、彼女が話しかけてきた。

「どうした?」
「実は、明日の事なんですけど」
彼女は何か言いにくそうにしている。

「明日、何かあるのか?」
「いいえ、無いんです」
「……もう少し詳しく話してくれると助かるんだが」

「明日はですね、その、お休みなんです」
「え、この世界お休みあるの?」
「もちろんです、定期的にお休みの日は決まっています」

156 :ハットリ六段:2014/07/01 23:14:42 (10年前)  1.14114114MONA/1人

■続きます

157 :htp32六段:2014/07/08 21:21:23 (10年前)  0MONA/0人

読ませていただいています。

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